海峡荘
奈良 広三
 「つる婆ちゃん、 つる婆ちゃん、 見てほら、 鶴がいっぱい」
「何で何で、 こんなに、 鶴がいるの?  ねぇ〜ねぇ〜 婆ちゃんてば!」
「あんり、 あんりには鶴が見えるのかい ?」
「うん、 だって、 あんりには、 つる婆ちゃんが見えるもん」
「え〜っ! そうしたら、 あんり何羽見えるの?」
「でも、 あんり子供だから・・・ん〜・・・でも 3万羽 !!   でも、 つる婆ちゃん

いっぱい、 いっぱい! ほら、 ほら! あっち、 ほら、 あっち! 何でいっぱいいるの?

ねぇ〜ねぇ〜 つる婆ちゃん 何で?」
「あんりは、 今年で何歳になったけな?」
「いやだ、 つる婆ちゃん、 あんりの年わかんないの、 今あんり5歳、 まこと兄ちゃん19歳で
ねぇ、 つる婆ちゃんは76歳、 ほいで、 たけし爺ちゃん73歳、 りつ婆ちゃん72歳!」
「へへ〜ッ! あんり全部正解!  あんりは良い子だねぇ〜!」
「でも、 でも、 何で、つる婆ちゃんも、 たけし爺ちゃんも、 りつ婆ちゃんも

皆んな、 皆んな羽根があるの?」

「あんり、 つる婆ちゃん達はね、 これから北国に行くところなの」
「北国ってどこ? 北国ってどういう所なの?」
「北国ってね、 あんりが婆ちゃんと同じ位の年になったらわかるかな」
「ほら、 あんり見て! たけし爺ちゃんも、 りつ婆ちゃんも羽根つけてるべぇ〜」
「ほら、 あんり見て! 向こう!  ほら向こうも、 皆んな皆んな羽根つけて」
「つる婆ちゃんが皆んな、皆んな連れて北国に行くけど」
「あんりには、 約束するね、 かならず又帰って来るから」
「でも、 つる婆ちゃん、 いつ、 いつ、 いつ、 帰って来るの?」
「来年の3月11日、 絶対、 絶対、 帰って来るからね」
「でも、 あんり、 3万羽の鶴の中で婆ちゃん達さがせるかい?」
「だって、 あんり、 つる婆ちゃんも、 たけし爺ちゃんも、 りつ婆ちゃんも、 皆んな顔わかるもん」
「たけし爺ちゃん、 たけし爺ちゃん!、 北国へ行っても、あんまり焼酎飲むなやァ〜!」
「あんり、 本当にえらいのォ〜! あんり、 来年6歳か、 来たら焼酎また飲ましてくれるか?」
「いいよ、 いいよ! たけし爺ちゃんなら3杯までって、つる婆ちゃんから言われているから」
「ほらほら、 たけし爺ちゃん、 りつ婆ちゃん、 そろそろ行くかね」
「つる婆ちゃん、 待って、 もう少し」   

「あんり、 でも、 そろそろ行かなくちゃ・・・」

「何で、 何で、 時間がないの?」
「あんり、 皆んな皆んな、待ってるべぇ」
「でも・・・・ つる婆ちゃん来年、 絶対来るよね。 絶対来てね!」
「あんり待ってるね、 つる婆ちゃんの家で絶対待ってるから」
「あんり、 あんり、 ほら見て、 皆んな羽根広げて」
「あんりに来年絶対に来るって言っているじゃない」
「あんりも来年小学校に入るんだから、 しっかりね」
「本当に、 あんり、 そろそろ行くよ・・・」
「母ちゃんと、 父ちゃんと、 それに、まこと兄ちゃん、 皆んな元気でねって・・・」
「あんり泣かなくていいって、 ほら泣かなくていいって」
「また来年、 絶対来る、 その先、 またその先、 ずっと、 ずっと来るよ」
「・・・本当に行くね。  あんり」
「つる婆ちゃん、 ちょっと待って、 たけし爺ちゃんも、 りつ婆ちゃんも、 ちょっと待って!」
「今、 母ちゃんと、父ちゃん呼んで来るから。 まこと兄ちゃん、 今いないけど」
「ちょっと、 本当に、 ちょっと待って!」・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 「ほらほら、 母ちゃん、 父ちゃん、 空見て!  鶴がいっぱい!」
「すごい! すごい! 見て! 空見て! 鶴がいっぱい!」
「ほらほら、 つる婆ちゃんも、 たけし爺ちゃんも、 りつ婆ちゃんも見える!  見える!」
「母ちゃん、 父ちゃん、 見える、 見える?」
「あんり、 あんり、 すごいね、 いっぱい見えるよ」
「ほら見て」・・・
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